ア 「学社融合への一里塚 学校図書館地域開放への札幌方式」

「久川 要」氏の報告と当日の配布資料から、要約。

大阪池田小の話。その後、オートロックでインターホンをつけるといったさびしい状況となっている(ところもある)。これは開かれた学校への逆行である。学校が地域の学校となって(住民が)人垣となる(それがいいのではないか)。校庭が住民の通り道となっている学校があります。(で以下の話、主に資料を読みながらの報告)

札幌市の学校図書館地域開放−「子どもおよび地域の読書活動をさかんにし、読書を通じて子どもとおとな、おとな相互の交流の場を広げ、地域社会の文化の向上に役立てる」ことを目的。昭和53(1978)年に一つの小学校でスタート。現在では全小学校の三分の一68校と中学校1校で実施。ボランティア3,400名の体制。現在も年間3校づつ拡大。

当初の目的を超えた成果−例えばある開放図書館での話。子どもの不登校に悩む母親→親子での図書館登校→子どもが登校しだす。他の図書館にも同様の例がある。札幌市では、学校を中心として地域の人々が子どもたちと関わることが目指されたが、長期間の継続は困難であって、その中で学校図書館地域開放は途絶えることなく継続している。そこでこの学校図書館地域開放の「札幌方式」がこれまであげてきた成果と、成長しえた理由を(久川氏がその任にあったときの調査(H11)を参考にしながら)考察し、学社融合への 道を模索する。


「札幌方式」の特徴

その1−「『地域住民に読書環境を提供する』だけでなく、『地域住民が図書館に入り子どもたちと関ることで、よりよい教育環境を整える』ことを併せ持っている」。昭和53年計画当初の公共図書館の一部代替機能、住民による学校図書館の整備。−ボランティアによる「人のいる暖かく楽しい図書館」

その2−「開放司書」の存在。有給の管理員ではなくボランティア(ただし「有償」−「謝礼」−久川氏はこれも重要と言う)。「活動に対する責任を持ち、ボランティアの核となり活動をコーディネートできる人材、図書館の運営と授業との連携を保つための人材」選任され各校で1−3名、但し「謝礼」は学校単位、司書資格の有無は問われず(H11年、107名中13有資格者うち4名は開放司書就任後に資格取得)、「本が好きで」「図書館での子どもたちとの関わりに熱意がある」人。もちろん研修等で能力の向上は図られている。

その3−活動・運営費用の教育委員会による負担。開始時の図書・備品等の購入(だいたい3000万円ぐらいかかる)、概ね7年ごとの図書更新費の他に、年間の図書費・活動費・謝礼として1校あたり約80万円弱が委託料として計上されている。この「公費の裏づけがあることが活動への入りやすさをもたらしました」。(主婦の感覚とでも言うか、費用は購入図書選択の学習会や他校との情報交換などの工夫によって無駄なく利用される)。


自立した活動継続への秘訣

その1−ボランティア活動への参加資格に制限を設けず、そのため人材を広く求めることになり活動の継続を保証してきたこと。−PTAとの違い。「卒業」も校区居住も理解ある教員の異動もないということ。「開放司書のほとんどは就任時はPTAですが、他校のPTAや地域住民が就いている例もあり、現PTAの数を非PTA(元PTAと地域住民)が上回っています。一般ボランティアも1/4が非PTAであり、学校と子どもを通じた関係を持たない地域住民も約6%含まれています」。

その2−ボランティア活動を継続するための3つの基本条件の定式化と確保。すなわち、「活動することがら」=「図書の整備、貸し出し、読み聞かせ等」、「活動場所」=「学校図書館」、「活動者の溜まり場」=「司書室」が3つの基本条件。

その3−教育委員会によるバックアップ。ボランティアに対する研修機会−活動参加者は「子どもたちと接する満足感を得ていますが、そのうえ研修に参加することで、自己の向上への喜びを求めることができました」。 図書館の活性化−教員に残る学校開放への危惧の払拭。教員、PTA、ボランティアとで構成する学校図書館開放協議会−他校との交流−活動への進展。「市立図書館は図書の移管、団体貸し出しで開放図書館の蔵書の不足を補いました」。

*現在開放校69校/全小学校211校で1/3にも達していない。年3校増加という「のんびりしたペース」、開放校の少なさが、未開放校との「差異を浮かび上がらせ、未開放校のPTAによる開放校の見学や、開放校のボランティアへの参加をもたらし、新たな開放への希望となっています」。−このような見学等からもまた活動のエネルギーをもらうことにもなっている。


活動の成果

その1−「『ボランティア自らによる参加者の勧誘』を定式化したこと」。 「『本が好き』、『子どもが好き』な人をはじめ、『子どもが通学していた』人をも巻き込んで、地域の『子どもを思う心』を学校に結集しています」。登録者の1/4が元PTAと地域住民、約1/3が有職者である。「PTAを中心にスタートした活動がPTAの枠を超えて、地域住民を結集するシステムとなっています」。

その2−『ボランティアの能力の活用と開発』。ボランティアの多彩な経歴−様々な有資格者。活動の継続による参加者の年齢層の広がり−「年配者が若いボランティアの子育てについて相談相手になる例も数多くあります」。活動参加による能力の開発・上昇。つまり、最大の目的−「本を読む心のゆたかな子どもに」+αとして、学校に先生ではない「おばさん」がいる「子どもの心のオアシス」となった。一方ボランティアの方も、「子どもとのふれあいの楽しさ」、多くの子どもとの出会いによるわが子の相対化や子育ての先輩の意見を聞く「子育てを学ぶ場」、活動参加を通じての「学びの場」、経験や世代の異なるボランティアとの「交流の場」になるという効果がもたらされたということ。


「札幌方式」の持つ意義と問題点

「札幌市の学校図書館地域開放は地域住民の善意を学校へ誘った方式です。学社融合の第一歩として『子どもを思う親のこころ』を出発点としました。『子どもを思うこころ』という情的基盤と『図書館活動』という知的刺激が人々をボランティアへと導きました」。

「それは、単なる『施設開放』とは違い、学社融合による『学校開放』は地域住民の善意が学校に入ってくることです」。単なる「施設開放」(自主管理組織を持たない)は、管理のための余分な経費を必要とし、行政への要求が先行した利己的なもの(=住民のエゴ)になりがちです(注意が必要)。「学校で子どもたちと関わるための『学校開放』から始め、自主管理組織の成立を待ってから『施設開放』へと進む道筋を歩めば、『開放』への教員の不安は少なくなるでしょう。まずは、図書館開放やクラブ活動支援など子どもたちと関わる人々への開放が必要です」。繰り返せば、単なる「施設開放」とは違い、学社融合による「学校開放」は住民の善意が、子どもが主人公である学校に入ってくること。

問題点−開放校は全小学校の1/3以下−毎年3校の開設ペースを上げること。参加者の熱意に呼応できるような研修の整備・拡大、授業への寄与度、開放時間(現週3回3時間)の延長、男性や年配者の参加しやすい活動との連携、など

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