融合フォーラム2001in鹿沼 01.7/8(2日目)

分科会A「学校を地域施設化した学社融合のこれから」

               コーディネータ:岸裕司(融合研副会長/秋津コミュニティ顧問)


<コーディネータより>

 体育館や校庭の開放以外に、余裕教室の開放や新築を機に複合施設化することによる学校施設の地域開放がさまざまに行われるようになってきました。そんな全国の事例を紹介します。併せて「学社融合」が行われている事例や、学校施設の地域開放によりどうしたら学社融合に至るのか等を議論したいと思います。


■ <事例紹介> 各地からの報告

▼福岡県福岡市立博多小学校(新築複合施設) 徳永恵美子さん(福岡市・高校教員・融合研会員)

・3年前に4校の小学校の統合により2001年4月に移築し新築。当初から「地域に開かれた学校」をコンセプトにした複合施設。地域コミュニティの中核施設となるように地域住民の意見を取り入れて、さまざまな工夫がされている。エレベータ設置のバリアフリーや太陽光発電設置のエコスクール等。
・幼稚園と公民館も併設。学校棟と地域開放棟がある。見学や授業参観は自由にできる。
・博多小学校施設開放委員会(PTAや各種団体の代表者14名)を組織して専任の事務局員が対応し運営。
・開放棟と開放されている施設 体育館、校庭、音楽室、図書館、クラブハウス(お茶会)、ランチルーム、表現の舞台(日舞や民謡の発表など200人収容可)。
・3年間で100人を超えるGTが「総合的な学習」やさまざまな授業に活躍している。


▼新潟県上越市立・大手町小学校ボランティアルーム 原省司さん(大手ゆめ空間・融合研会員)

・余裕教室を保護者のボランティアグループ「大手ゆめ空間」が借りてボランティアルームとして使用していますが、鍵の管理も含めていつでも自由に利用できるコミュニティルームにしたいと思っています。
・が、改装費等の問題もありまだ開校時間帯のみの利用です。
・利用については、学校と相談し「申し合わせ事項」を取り決めています。参加者の事前登録、活動時のネームプレートの着用、ボランティア保険への加入等。約130人がボランティアとして参加。
・昼休みの「チャレンジクラブ」や地域のおじいさんが将棋を教えてくれたり、隣の学区のお母さんたちが影絵を使った演劇を上演してくれたりの活動をしています。
・この教室の開放が行われたことで、いわゆる「学校開放」の大切な要因(精神的にも物理的にも)は90%以上進んだと思います。


▼ 神奈川県川崎市立虹ケ丘小学校コミュニティルーム

夏井賢さん(資料参加・川崎市教育委員会・融合研会員)が欠席につき、岸+油谷雅次さんが説明)
・地域に公民館建設の要望があったが、土地の確保ができずに市が学校施設のコミュニティルーム化を図った施設として平成10年12月開設。開設時に調理室1・学習室3・視聴覚室1に改装。
・ 虹ヶ丘小学校施設開放運営委員会コミュニティルーム部会を設け、管理指導ボランティア(登録者50名+事務局4名)を募り鍵の管理を含めた地域の自主管理施設。学校側とはシャッターで仕切り開校時は避難通路として開放しています。9時〜21時の利用時間。月平均1200名利用。90団体登録。会報「虹のかけはし」を毎月発行。
・学社融合の意思があった地域開放ではなかったが、コミュニティルームでさまざまな活動をしていることにより結果的には学校の方から声がかかり、さまざまなサークルが授業の中に入っていくようになってきました。
・学社融合を目指そうと思わなくても学校施設の開放をすれば、授業に協力できる素材が双方に発見できる好例と思います。


▼大阪府貝塚市立北小学校ふれあいルーム 油谷雅次さん(北小学校ふれあいルーム副委員長・融合研会員)

・平成10年に公民館の人と地域の人が学校で何かやろうということで「ふれ合い祭り」をやりました。これが面白く、このまま終わらせてはもったいないということになり次の活動に繋がりました。
・校長から「空いている教室を使ってもいいよ」と言われ、地域の団体が参加して運営委員会を立ち上げた。
・活動を見ていた子どもが入ってきて、授業でもということで、例えば公民館の高齢者大学の一つでやっていた「折り紙折り」を授業の中でもやるようになった。
・2年目から、総合的な学習で「歴史探検」をテーマにして他のグループも入り地域の古い店などを使い学社融合の活動をしています。地域の方にもこうしたことを受け入れてもらえるようになってきました。
・運営委員会(17名)は今では23団体が参加。使用スペースは教室一つ分。鍵も預かり休校日でも使用しています。他の部屋は施錠をしています。各グループの人がそれぞれが何らかの役割を持っています。
・読み聞かせをやっているグループが、学校の昼休みに15分間の活動をしています。
・25年間頑張ってやってきた昔の祭り踊りを伝承するグループがありますが、若い人の参加が少なかったのに、学校でやるようになって若い人が来るようになりました。


▼京都市立小学校の「ふれあいルーム」事業開始 報告:岸裕司

・京都市では、「地域に開かれた学校」を目指し従来より「グリーンベルト事業」(学校の金網の柵を生け垣に替える事業)と、「ふれあいサロン事業」をモデル的に進めてきました。
・地域方々で運営委員会を組織して鍵も預けて運営を担ってもらっています。
・ 岸は今年の春、京都市立崇仁小学校を訪れました。校庭のはずれに流れる高瀬川の支流を利用したビオトープづくりを、学校と地域が構想し進めようとしていました。案内してくれた教頭さんに聞きました。「鍵は地域に預けるのですか?」と。教頭さんは「町会長でもある運営委員長さんに校門と校舎の鍵2つを預けます」と言いました。京都府では、今年からすべての小学校に「ふれあいサロン」を設置しました。


■各活動での課題

・多様に使ってこそ活きる施設なので教師の意識改革が課題。
・利用が多く光熱費や人員の問題、苦情処理を学校が受けているが今後どうするか(以上、博多小学校)
・地域が運営する独立した施設としてのコミュニティルーム化を図るための改装予算が課題(大手町小学校ボランティアルーム)。
・市からの委託費が活動に見合うものかどうか。
・総合的学習などでの融合・連携はまだ(以上、川崎市虹ケ丘小学校コミュニティルーム)。
・行政、学校との取り決めが何もなく、クーラーを勝手につけた。電気代や電話代を今後どう処理するか。
・空き教室のどこを使うのかを一度検討しておく必要がある。「空いていればどこでも」というのではだめ(以上、大阪府貝塚小学校ふれ合いルーム)。


■ディスカッション内容

・平日の昼間に大人が活動していたのでは、子どもが授業に集中できないのではないか。⇒そういう懸念もあったが、実際に開放すると「互いに知り合える」や「授業充実素材が発見できたり」といったメリットの方が多いのでさほど問題でもなくなる。
・地域からの苦情内容は学校に伝えるが、地域の生活者の集団でもある運営委員会が互いに折り合いを付けていけばいいのでは。学校や行政を頼るのではなく自律した運営が大切。
・池田小事件のあと、開放には、揺り戻しで慎重になるところも出てくるのでは。⇒逆に池田事件は、自分の子どもしか関心のない人を学校や子どもの安全に気を配り引っぱり出すチャンスと思う。開くか閉じるかの二者択一ではなく、有形無形(授業への参画)の学校機能を「開く」ことで「地域社会の中の学校」との想いを共有できるノーマライゼイションのまちづくりが大切だと認識したい。


<参考> コーディネータより

<共通項目化したい学校施設の開放にあたっての視点> 
・保護者や地域の利用者が自主運営委員会を組織する
・自主運営委員会が「カギを管理」して閉校日も含めて開設するとよい
・ 開校時間帯もコミュニティルームとの「行き来ができる子どもと大人の<動線を確保>」するとよい
・そのことから「学社融合」教育事例=学校教育が充実するがゆえの学校開放事例が積みあがっている
・ 集った方々がさまざまなサークルをつくり、その事により多様な仲間づくりの「入り口」を無理なく拡大できる

◆「学校開放」の考え方=学校の「有形機能」と「無形機能」

1. 施設(ハード)の開放(「有形機能」)
2. さまざまな「人が入る=交流」ことによる開放(学校特性を活かした「無形機能」)
の2通り。この2通りの学校開放を意図的に行うことにより、学校と地域双方にさまざまなメリットを生み出します。

◆学校開放の心得

1. 「学校教育が充実するがゆえの学校開放を行う」との明確な学校や教育委員会側の開放姿勢が大切です。
・授業への参画開放(狭義の学社融合)−ただし人材「活用」の発想は、活用される人と活用されない人との差別感を地域に持ち込む事になるので注意が必要。
・その際参画する地域の方々は「無償が原則」。参画者にもメリットがあることが前提になる学社融合だから、無償が当然なのです。ただし、年度末に大人に出される「子どもの手描きの感謝状」はいただきます。
・施設の開放 開校時の学校施設の開放(例えば空き教室のコミュニティルーム化)は、子どもと地域の人との交流動線を確保(隔てない)すること=学校にとっては授業充実素材の発見につながることが多く、また日常的な子どもと地域の大人の交流が生まれ地域の子育て子育ち体制形成に役立ちます。
・教職員にとっては「居ながらにして授業充実素材が入手できるシステム」であり、地域は「学校を基地にしたさまざまなネットワークの形成」にもなります。

2. 夜間や休校日の開放(広義の学社融合=直接学校教育課程にメリットを生みはしませんが、地域の方々が学校を基地にすることから「結果的に学校教育にメリットを生む学社融合になる活動」が多く発見されてきました)。

3. 学校施設開放にあたっては、地域の利用者による運営委員会を組織します
・鍵を預けて「自主・自律・自己管理」の運営⇒行政負担少ない+利用者住民の自主防災意識の醸成になります。
・鍵を預けることにより教職員の休日確保を始めから意図する開放になります⇒ 教職員は居住地の学校で地域の大人として参画すればよいとの「教師の過剰負担感」の払拭を始めから意図した開放方法でもあります。

4. 2002年度からの完全週5日制までの心得とシステム準備 
・学校開放による施設利用での地域の子育て子育ち体制づくりの必要性への共通認識づくりをすすめます。校庭の農園化も一例。
・地域が担う総合型スポーツ(体育館や校庭)&コミュニティクラブ(余裕教室・特別教室・敷地・陶芸窯他)づくり。

<学校施設の地域開放に向けての国(文部科学省)の意思>
◆ 寺脇研・文部省大臣官房政策課長(現審議官) 『文部時報』2000年6月号 対談より

「学校は授業をしている時間は『学校』ですが、それ以外の時間は公的な営造物であって、それは税金で建てた建物がそこにあるわけですから、学校教育をしていない時間は他のことに使わないともったいない。そういう割り切り方が教育現場に非常に薄かった。これは文部省や教育委員会も含めて反省をしなければいけない。」

◆有馬朗人・前文部大臣  1998年11月13日 第34回(財)民間放送教育協会 虎ノ門ホールで秋津実践ビデオを観て

「2002年度からの土日が休みになるときは、学校をかなり開放すべきであるというのが我々の考えです。秋津小学校のように、地域社会の方たちが子ども及び自分たちの教育、遊び、いろいろな面で社会活動の場としてご活用をいただきたいと思います。」


                             記録・文責 矢吹正徳(日本教育新聞社・融合研監事)


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